会社経営−消滅した会社NERECから学ぶ

会社経営

〜 大企業病 〜

Kiyomi Tabuki


まえがき

コンテンツ「消滅した会社から学ぶ」で大企業病について触れたが (*1)、ここでは、大企業病に関する情報を付加する。


■ 責任無き社員採用

中小企業であれば、社員の採用は会社の将来を左右する非常に重要な事柄であるから良く見極めて採用するだろうが、大企業病になった会社は見極めに対する真剣さに欠ける採用の担当者がどんな人材を採用したところで本人はあまり困らないからだ。困るのはダメ社員を強制的に部下にあてがわれる上司だ。

自分も、昔、主任の時代に、ある典型的なダメ社員が部下にあてがわれてしまったことがある。このダメ社員君は、仕事に関してはチャランポランで、就業時間中でも自分の興味がある別のことをやってるようなタイプだった。植木等の「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」系の映画や歌は面白くて好きだが、自分の部下で実現するとは何たる悲劇。

1年に1回、主任は部下の評価を行う人事評価制度があり、この部下をできるだけ正しい評価結果となるようにマイナス査定をした。だが、このような査定を行う主任は希である。結局、マイナス査定をすると主任は部下に恨まれるだけで何の得も無い。このダメ社員くんも、自分の部下になる前は、他の主任の部下であった訳で、その主任の評価は当たり障りの無いものであった。そう、このダメ社員くん、タカをくくっていたのだ。しかし、自分は主任の責任を優先しマイナス査定を行い、部下の恨みを買う方を選んだ。

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■ 増えるセクション間の不公平感・厚くなるセクション間の壁

福利厚生の一環として、年に1回、芸能人を招いてイベントを行う訳だが、この手のイベントとに参加するのは決まって暇な部門だ。また、保養所とかを格安で借りて楽しい思いをするのも同様だ。一方、自分が所属していたのは直接部門である技術部で、朝から晩まで仕事漬けで、加えて頻繁に出張が発生するような環境だった。イベントに参加する時間的余裕もないし、保養所の恩恵もたいして享受していない。つまり、同じ会社に勤める社員であってもセクションによって生活が大きく異なり、福利厚生は暇な間接部門のためにあるようなものなのだ。

セクショナリズムという言い方がある。大会社になるとセクション間の壁が厚くなって自分のセクションを保護し、自分のセクションが有利になるように行動する部長や課長が増える。その結果、セクション間の連携がうまく取れなくなり効率が悪くなる。本来はセクション間の連携がうまく取れて全体が効率よく動けば、会社の利益も増え、やがては働く側にも還元されることになるのだが、大会社になると会社全体の大きさが大きくなりすぎて会社全体が見えなくなってしまうのだ。


■ 労働対価としての給与であるという意識の低下

給与は労働に対する対価であるはずなのだが大会社ではその意識も低下する。中小企業であれば、短いスパンで自分の努力や会社の業績の善し悪しがダイレクトに給与に反映されるが大企業の場合それが反映されにくい。大会社は賃金の決め方が硬直化している。その最たるものが年功序列賃金だが、さすがに最近、その弊害が目立ってきて、能力給重視の方向にシフトしてきているようだが、年功序列賃金というのは硬直化している大企業の給与体系の氷山の1角にしか過ぎない。例えば、昇進に保留期間があって、優秀な人でもなかなか昇進できなかったり、書記さんと呼ばれる事務の女性がいるのだが、いくら優秀でも昇進もなければ給料も低かったりと、非合理なことが山のようにあるのが大会社という印象だ。

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*1 NEC は言わずと知れた大企業である。大企業病にかかって当然である。そして、私の人生をかけた実験により発見できたことは、 大企業病は子会社に伝染することがあるということである。伝染媒体は、もちろん、親会社から子会社へ左遷のようにして、退職までの腰掛のような形で送り込まれる面々である。

そして、それらのやる気の無い面々が醸し出す無力感の中では、NEREC の生え抜きのヤル気を引き出すことは困難で、経営効率をアップさせるような改善は形の上では提案制度等を通して行われるかも知れないが、魂のこもった真の改善は行われない。優秀な人材の流出は一層加速する一方、冒険に踏み出すことが出来ずに NEREC に残留する社員は一層腐っていく。

人事評価制度は崩壊状態にあり、加えて、仕事の出来ない社員にも給与を垂れ流しで払い続けていた。能力がある社員を正しく評価できる上司もいない。それでは、真面目に一生懸命働く社員は居なくなって当たり前だ。当時、私は NEREC では他を大きく引き離す語学力を誇っていたし、約5千人が働く NEC の府中事業場全体で見ても最高レベルの一握りの英語の達人が集う研修に参加するレベルにあった。しかし、 NEREC に於いて、私を評価する立場にある上司が、自分で言うのも何だが、その凄さを全く理解できず、逆に「出る杭は打たれる」ようなありさまだった。

何れにしても、私は NEREC に将来は無いと悟った訳だ。 そして、他の退職理由(※)も手伝い、私は NEREC および出向先の NEC を辞める決心をしたのだ。

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